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東京地方裁判所 昭和37年(行)122号 判決

原告 有限会社 山岸商店

被告 東京都知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

(原告)

被告が原告に対し昭和三七年八月二〇日付三七建河管発第一二六〇号でなした砂利採取行為を中止するよう命じた処分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文同旨。

第二原告の請求原因

原原告は東京都八王子市楢原三五七九番地原野一町三反一五歩(以下本件土地という)を昭和三六年一一月頃その所有者山岸千恵子から賃借して砂利採取をしていたものであるが、被告は昭和三七年八月二〇日付三七建河管発第一二六〇号をもつて、原告に対し、河川法(昭和三九年法律第一六七号による全文改正前のもの、以下法と略称する。)一九条に基づく河川取締及び河川生産物払下規則一条に違反しているとして、砂利採取行為を中止するよう命ずる旨の処分をなし、その通知は同月二二日に原告に到達した。

しかしながら右処分は違法であるからその取消しを求める。

第三被告の答弁及び主張

一、請求原因事実中原告が本件土地を賃借していることは知らないが、その余の事実は、本件処分が違法であるとの主張を除き、すべて認める。

二、北浅川は、東京府知事が法五条による法準用令一条の規定に基づき明治三四年五月一四日付東京府告示第八五号及び昭和一六年六月一〇日付東京府告示第八二四号をもつて認定した準用河川である。

本件土地は昭和一六年の認定区域変更当時から北浅川の区域内に存在し、現在も引き続き存在するものである。仮に昭和一六年当時から現在迄の間に地形的変化があつても本件土地は少なくとも現在は北浅川の河川区域内に存在するものであるところ、準用河川については法二条の準用はなく本件北浅川についても河川区域の認定(幅の認定)はなされていない。ところで、法二条二項の規定は、河川の区域は原則として現状主義を採るとの法意を示すものであり、認定区域が現状と異る場合、区域を変更して現状を符合するようにさせているものである。このことは、河川の管理ということからして当然のことである。区域の認定をしない準用河川についても、河川管理権の及ぶ河川の区域は右に述べた適用河川と同様に現状主義を採つていることは論をまたないところである。すなわち、自然の流水の力により河川の区域の変動があつた場合、準用認定の効力は変動した河川の区域に及ぶことは当然で、本件土地も準用認定の効力を受けるものである。

三、北浅川の区域内においては、昭和三二年春頃から多数の砂利採取業者が採取作業を開始し、その規模も機械を使用するなどしだいに大きくなり、同河川流域の堤防及び橋梁は決壊のおそれを生じ、また附近の農業用水及び井戸水が枯渇もしくは汚濁するなど乱掘による弊害が目に余るようになつた。そこで附近の住民は生活に重大な影響があるとして、被告に対し口頭又は文書をもつて再三にわたり砂利採取禁止方の陳情を行つた。

被告は右砂利採取行為を放置する場合には北浅川の管理上重大な支障を来たすものと認め、昭和三七年二月二日及び同月一〇日砂利採取業者等を集め砂利採取の許可を受けている者は許可条件を守り機械掘りをやめること、無許可で砂利を採取している者は許可を受けるよう指導したが、右業者等はこれを遵守しなかつたので、砂利採取の許可を受けていた者に対しては許可を取り消し、無許可で採取していた者に対しては中止命令を発したが、原告は無許可で砂利採取をしていたため、被告は昭和三七年八月二〇日付でこれに対し中止命令を発したものである。

なお被告は法一九条に基づく規則に違反していることのみを摘示して右中止命令を発したけれども、これは原告の行為が河川に前述のような影響を及ぼすおそれがあるものであることに着目してなされたものであり、原告の行為が砂利を採取するものである以上、法一七条の二にも違反するのであるから、被告の中止命令は同条を明示していなかつたとしても適法性において何ら影響のないものである。

四、元来河川は極めて公共性の強いものであつて、一旦治水、利水を誤つたらば附近住民が計り知れない位の甚大な害を受けることはあえて説明を要しないところである。そこで国家は河川の管理権を自らの手中に掌握して私人をしてみだりにこれに関与せしめないことを建前としている。このことは法三条が河川、その敷地、流水について私権を否定し、法二章及び三章で河川管理者に対し極めて強力な管理権を与えていることに現われている。これを本件についていうならば法準用令二条によつて準用される法一七条の二及び法一九条の規定に基づく河川取締及び河川生産物払下規則一条により本件土地内で砂利採取等の行為をなすことは一般的に禁止されており、私人である原告は河川管理者である被告の許可を得た場合にのみ砂利採取をなしうることとなるものである。従つて、原告が砂利採取の許可を受けておらず、又その砂利採取行為が北浅川の現状からみて、河川管理上支障があることが明らかである以上、原告の砂利採取行為が中止されるべきは当然であり、本件中止命令は適法である。

第四被告の主張に対する原告の反論

一、北浅川が準用河川に認定されている旨の被告の主張事実は知らない。仮に準用河川の認定があつたとしても、次の理由から右認定が本件土地について効力を生じるいわれはない。

(一)  被告の主張する認定当時本件土地は右認定の区域外に存在していた。又認定は河川の実体に則してなされなければならないところ、認定当時本件土地は草原で河川の実体を備えていなかつたから、本件土地が認定当時その区域内に存在していたとしてもそのような認定は無効である。更に行政実例では認定に当つては主務大臣の事前指揮を必要としていたところ、本件においてはそのような事前指揮をうけた事実はない。

(二)  法一条の河川については法三条によつてその敷地の所有権は私権の目的となりえないから新たに河川敷地となる土地については憲法二九条三項の規定により当然正当な補償をしなければならない。ところが準用河川では法準用令二条で法三条の準用をしつゝ、「敷地を除く」としてその敷地の私権を奪わないことにしている。これは流水が私法上の権利対象となることは比較的少ないのでこれを私権の対象としなくとも権利を侵害することが少ないのに対し、土地所有権は最も基本的な権利でこれを制限することは補償の要否が問題となるため、法は国家の負担を軽減するため、補償対象となり易い敷地については所有権等を存置するという方法をとつたのである。しかるに流水について工作が許されないとすれば、その敷地についても権利者は所有権を行使しえないのであるから、結局法準用令二条の敷地の除外規定は、敷地の補償を免れること及び河川の管理費用を専ら土地所有者の負担に転稼させることを目的としたものというべきである。このような立法は旧憲法下においてはその公益優先という考え方から容認されたのであるが、新憲法の下においては許されないものである。従つて法準用令二条の規定中「敷地を除く」との定めの部分は新憲法の施行日以後新憲法の規定に反するものとして効力を失つたというべきで、同条に基づいて発せられた北浅川の準用河川の認定もその根拠を失つたものとして当然に無効となつたといわねばならない。

(三)  準用河川の認定があるとその敷地について私所有権のうちその自由な使用収益の権限が剥奪され又は国家に吸上げられる結果となるので、準用河川の認定をする場合はその河川の区域内にある私所有地の権利者に対しては正当な補償をすべきところ、本件土地についてはその補償がないので準用河川の認定は無効である。

二、原告の砂利採取行為によつて河川の堤防及び橋梁が決壊するおそれがあり、附近の農業用水及び井戸水が枯渇するとの被告の主張事実はいずれも否認する。

すなわち、原告が現実に砂利採取をしたのは堤防からかなりの距離をおいた河川敷の中心部附近であつて、この限りでは堤防決壊のおそれは全くなく、被告主張の橋梁とは松枝橋を指すものと思われるが、原告の作業地域と松枝橋との距離からみても決壊のおそれがあるとは到底考えられない。

又本件土地及びその周辺には農業用水の取入口はなく、その枯渇、汚濁を生じるいわれはない。更に他の業者が被告主張のように乱掘したからといつて、原告の採掘によつて河川管理上危険を来たすものではない。

従つて被告の中止命令は違法である。

三、被告は、原告の行為が通知書記載の処分根拠のほか、法一七条の二にも違反すると主張するが、被告の本件中止命令はいわゆる覊束行為であるから、処分理由の追加は許されず一旦法を適用して処分をした以上はその効果はその限度において評価されるべきであり、その変更、撤回は許されないものといわねばならない。すなわち、本件中止命令の適否は、原告の砂利採取行為が河川生産物払下規則一条に違反するか否かによつて決せられるべきものであつて、これに違反しない以上、本件中止命令は違法である。従つて被告の主張は失当である。

四、準用河川の敷地において私権が消滅せず、被告の具体的な処分によつて私権が現実に制限或は禁止されるのであれば、憲法二九条三項によつて正当な補償の下にこれがなされなければならないから、正当な補償なしになされた本件中止命令は無効なものである。

第五原告の反論に対する被告の主張

一、法準用令二条が憲法に反する旨の主張について。

同条が法三条を準用するにあたり敷地を除外したのは、法一条の河川と準用河川に対する公益性の軽重による取り扱いの差異に基づくもので、原告の主張するように河川の費用負担を河川敷地所有者に転嫁せしめ、国の財政負担を免れるためのものではない。

二、準用河川の認定及び被告の本件処分が補償を要する旨の主張について。

河川は自然の状態においてすでに公物としての適格性を備えており、公共の利害に重大な影響をもつ治水、利水の見地からする私有財産権に対する制限は公共の福祉によるもので、この制約はその財産権に内在するものとして憲法二九条三項の補償の必要はない。

又本件土地が河川の敷地内に存するに至つたのは自然の流水の力によるもので、被告は唯その状態を前提として管理行為をしているにすぎないから、河川管理者の積極的な疎通工事等により土地が河川の敷地になつた場合と同様に論ずることはできない。

仮に補償義務があるとしても本件処分についてそれは要件ではないから補償の有無は本件処分の効力そのものには何らの消長を及ぼさず、本件処分を取り消すべきであるという原告の主張は理由がない。

第六証拠〈省略〉

理由

一、本件土地が訴外山岸千恵子の所有にかかわるものであること、原告が本件土地において砂利を採取していたところ、被告が昭和三七年八月二〇日付三七建河管発一二六〇号をもつて原告に対し原告主張のとおりその砂利採取行為を中止するよう命じ、右通知は同月二二日に原告に到達したことはいずれも当事者間に争いがない。そして原告が本件土地を訴外山岸千恵子から賃借していたものであることは、原告代表者本人尋問の結果(第一、二回)により認められる。

二、原告は北浅川が準用河川に認定されている旨の被告の主張を争うけれども、明治三四年五月一四日付警視庁・東京府公報第三四七号によれば、同日東京府知事が東京府告示八五号をもつて浅川(南多摩郡恩方村大字下恩方・浅川村大字上椚田下流多摩川合流点迄の区域)を準用河川に認定したことが認められ、また昭和一六年六月一〇日付警視庁・東京府公報第二二一四号によれば、同日東京府知事が東京府告示八二四号をもつて準用河川と認定した浅川の区域を北浅川(左岸、右岸とも南多摩郡恩方村大字上恩方醍醐川合流点より南北浅川合流点迄の区域)、南浅川(左岸、右岸とも南多摩郡浅川町大字上椚田案内小仏両川合流点より南北浅川合流点の区域)と変更したことを認めることができる。

三、(1) 原告は本件土地について北浅川の準用認定が効力を生じない理由として、まず本件土地が認定の区域外であり、又は河川の実体を備えていなかつたと主張するが、法準用令は法二条を当然準用規定としていないので、準用河川の認定に当つては準用河川の区域の認定(その幅の認定)は必要でないと解すべきであり、このような準用河川の流水が自然の力により変動した場合に変動した後の流水、河川敷地に準用認定の効力が及ぶものと解すべきことは、河川管理の見地からして当然のことである。ところで、証人小島兼七、同佐藤重太郎、同関口助之亟の各証言及び検査の結果を総合すれば、北浅川には何ら特別に人工的な力は加えられたことはなく、一方本件土地は堤外地(堤防からみて流水の存する側)に存し、常時河川の流水におおわれていないが、流水が反覆して流れるため河状を呈し、現に北浅川の河川敷地になつていることが認められる(右認定を覆えすに足りる証拠はない。)のであるから、本件土地には準用河川の認定の効力が及ぶものといわなければならない。

又原告は行政実例に反した準用河川の認定であるというが、これが準用河川の認定の効力を無効ならしめるものと解することはできない。

(2) 次に原告は法準用令二条の敷地についての除外規定が憲法に反するから右規定に基づく準用認定も無効である旨主張するが、かかる趣旨の主張は全く独自の見解であつて、採用することができない。

(3) 更に原告は準用河川の認定をするについてその河川の区域内にある私有地の権利者に対して正当な補償をしなかつたので認定は無効であると主張する。

準用河川の認定によつて、その河川敷地のうち私有地に対する権利の行使が制限されることになるが(法準用令二条、法一六条乃至二〇条参照)、およそ河川はその本質上公共の利害に密接な関係を有するものであつて、一旦その治水、利水を誤まれば附近住民の安全更には国民経済上重大な影響を及ぼすことになるのはみやすい道理である。そして本件のように人工流水によらず自然の状態において準用河川の敷地内に存在している私有地について、その権利の行使が制限されるのは、かかる河川敷地の所有権に内在する社会的制約に基くものと解すべきであり、権利者としては、当然これを受忍すべきものであるから、本件の場合は憲法二九条三項にいう私有財産を公共のため用いる場合には当らず、損失を補償する必要はないといわざるを得ない。従つて原告の右主張も失当である。

四、被告は、原告の砂利採取行為は北浅川の管理上支障を生ずるものであり、又原告は法一七条の二の許可を得ていないのであるから、その砂利採取行為は中止さるべきものであると主張するので、以下判断する。

まず原告の砂利採取行為が北浅川の管理上支障を生ずるものであるか否かについてみると、証人関口助之亟の証言により真正に成立したものと認められる乙第一、二号証、成立につき争いのない乙第三号証の一、二、乙第四号証の一乃至一六、証人佐藤重太郎、同関口助之亟、同中島盛雄、同中村幸作の各証言及び検証の結果を総合すれば、次の事実を認めることができる(なお括弧内の証拠は各認定事実に照応する主要な証拠を示す)。

北浅川の松枝橋上流約二、〇〇〇米から松枝橋下流六〇〇米にわたつて砂利採取業者らが砂利採取を開始したのは昭和三四年頃からであるが、昭和三六年一〇月頃になつて附近住民は、右採取状況が著しい濫掘であり、八王子へ通じる道路が流失するおそれがあり、又井戸水、水利権、殊に潅漑用水に対する影響並びに騒音、塵芥による害があることを理由として、被告に対し、砂利採取の規制方を陳情するにいたつた(乙第一、二号証、乙第三号証の一、二、証人佐藤重太郎、同関口助之亟の各証言)。他方直接の管理官庁である東京都南多摩地方事務所の土木課河川係長佐藤重太郎、同課管理係長中島盛雄らも巡視の報告から河川の状態が砂利の採取により悪化したことを知り北浅川の状況の調査をしたところ、昭和三六年暮から昭和三七年二月にかけて官有地において許可をうけて砂利を掘つていた業者は一三名乃至一四名、私有地を掘つていたものは三名乃至四名であつたが、松枝橋の上流及び下流にわたり諸所の川底に滑(粘土層)がでて河床の安定勾配が保てなくなるほど砂利を掘りつくし、又松枝橋上流右岸の防災林、砂防施設に影響を及ぼすような砂利の掘り方をするものがあつて、これらの砂利採取によつて河床は一・五〇米ほど下り、北浅川の勾配がその安定勾配である二〇〇分の一をこえて一三〇乃至一四〇分の一になり、又堤防の蛇籠の下が一米以上下つたため、流心の方向によつては堤防が決壊するような危険箇所が三、四ケ所生じたほか、松枝橋及びその上流の元木橋の橋脚の根入が浅くなつて損壊のおそれを生じ、更に松枝橋上流の九町歩ほどをうるほす潅漑用水の用水管には水が入らないという事態を生じ、このまゝ放置すれば更に上渡に危険区域が波及してゆく状況に及んだので、右状況の調査後昭和三七年二月二日に、東京都の河川部長関口助之亟は南多摩地方事務所の担当係官と共に同事務所に業者を集め、一応砂利採取を自粛すること、官有地で許可を得ている業者に対しては手掘りが本来の許可条件であるから機械掘りをしないこと、許可をうけていないものは私有地であつても採取地域及方法について許可申請を提出して許可をうけるよう指示したほか、砂利採取後の穴やガラ等の山を同月一五日迄にかきならすようにと指導し、その結果をみることにした。しかし同年二月一五日頃の状況としては、大部分整地はされたが一部は放置されていてこの部分は被告が整地したけれども、その間盗掘する業者も相当あつて、整地後の結果をみても依然として砂利採取を続行させることは危険であることが認められたので、被告は同年三月下旬頃再度の現地視察を経て同月二九日原告を含め北浅川において砂利を採取していた業者に対し全面的にこれを中止するよう命令を発した(乙第四号証の一乃至一六、証人佐藤重太郎、同関口助之亟の各証言及び検証の結果)。なお原告に対しては宛名を誤つたので同年八月二〇日に中止命令を発送しなおした(証人中島盛雄、同中村幸作の各証言)。

右のように認められるのであつて、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

原告は、原告の砂利採取は原告の作業区域に一番近い松枝橋の損壊や堤防損壊のおそれを生ぜしめず、用水に影響を及ぼすこともなく、原告以外の他の業者が濫掘しても原告の砂利採取行為自体は河川管理上危険なものではないと主張するけれども、証人中村幸作の証言及び原告代表者本人尋問の結果(第一回)によれば、原告は本件土地について、手掘りではなく、ブルドーザー、ローラー、シヤベルローラー、クラツシヤー等を使用して、排他的、継続的に砂利を採取していたものであることが認められ、また証人中村幸作、同佐藤重太郎、同関口助之亟の各証言及び検証の結果を総合すれば、本件土地は昭和三二年九月頃に比して深さ一米ほど砂利が採取されていて少なくとも河床を下げ、現在の路面より一米以上も深く掘つて行くと、本件土地に近接して左岸に存在する本件検証調書にいわゆる第一堤防と第二堤防とによつて構成されている洪水緩和地帯はもとより、右岸に存在する右調書にいう第三堤防に危険を生ずるおそれがあり、河川管理上支障をきたす状況にあること又原告を含めて二〇に余る業者が河川全域にわたつて砂利を採取する場合、本件土地を含む下流の河床低下が上流の河床低下を招来することが必至まであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上認定の事実によれば、原告の本件土地における砂利採取行為は北浅川の河川管理上支障を及ぼすものということができるのであつて、この点に関する被告の主張は正当というべきである。

五、なお、原告は本件中止命令の適否は、通知書記載の処分根拠の有無によつて決すべきであつて、処分追加理由である法一七条の二所定の違反行為の有無によつて判断することは許されないと主張する。

たしかに、本件中止命令は、北浅川河川区域内における原告の無許可砂利採取行為が法一九条に基く河川取締及び河川生産物払下規則一条に違反しているとの処分理由をもつて発せられたものであり、このことは、当事者間に争いのないことである。ところで、本件中止命令は、被告が法律、命令の違反に対しその是正を求めるため河川監督権の発動として発したものと解せられるところ、処分の理由明示やその他の方式について別段の規定があるわけではなく、また本件中止命令は原告の右河川区域内における無許可砂利採取行為を中止すべきことを命じたものにほかならないから、被告が法一七条の二違反行為を処分理由に加えても右中止命令の同一性を失わしめるものとは解しがたく、また右の追加事由を訴訟において主張することも許されるものといわなければならない。従つて原告の右の主張は理由がない。

六、更に原告は正当な補償を伴なわない本件中止命令は違法であると主張するけれども、原告は法一七条の二による許可を得ていないのみならず(このことは、証人関口助之亟の証言、原告代表者本人尋問の結果によつて明らかである)、既に示した準用河川の認定と正当な補償との関係についての判断(前記三、(3))を前提として考察すれば、準用河川敷地内に存する本件土地の砂利採取行為に関して被告が本件中止命令を発するについても、原告に補償する必要はないものというべきである。

七、以上のとおりであるから、原告の砂利採取行為を中止するよう命じた被告の本件命令は適法であつて、原告の主張はいずれも採用することができないから、原告の請求を失当として棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 緒方節郎 中川幹郎 前川鉄郎)

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